【記者兼農家のUターンto農】#45 リーフレタスの育苗

土は欧州と信州のハイブリッド

欧州から土がやってきた。先月、父と農協に注文した資材を受け取りに行くと、「メード・イン・ザ・EU」と書かれた袋があった。欧州連合(EU)製だ。パンパンに土が詰まっていた。
表にドイツ語や英語など5カ国語で「培養土」と書かれている。裏の説明書きは約20カ国語を数える。中国語はあるが、日本語はない。そんなグローバル資材が、うちにやってきた。リーフレタスの苗を育てるために。
苗床の土には条件がある。適度な保水性と排水性、水素イオン指数(pH)…。病気のもととなるものに侵されていないことも重要だ。
これだけの土を自分の畑で大量に準備するのは大変。リーフの場合、トレーの穴に詰めやすい、さらさら感もほしい。いきおい、管理しやすい市販の土を買うことになる。
うちは県内業者の土も使っている。ビニールハウスの作業場で、欧州と信州の土が出合う。自家製もみ殻くん炭なども混ぜ合わされ、父のオリジナルレシピによる床土ができあがる。
そういうわけで、うちのリーフは「日欧ハイブリッド」の土で芽吹く。妙な感じがしないでもない。ただ、そもそもレタスの原産地は地中海沿岸から中東という。「本場」の一角、欧州の土で育てるのは、種の生理に合っているのかも…。
だが、わざわざ欧州の土を使う理由として父は安さを挙げる。農協ルートなら品質はある程度保障されるし、後はコストの問題|というわけだ。信州の片田舎の農業もグローバルにつながっている。
そんな時代に戦争が始まった。野菜を育てる土が遠く日本まで届くのに、その欧州の端っこの領土をむしり取ろうと、隣人に殺される人がいる。焦土と化す耕作地もある。時代が逆回転し始めたかのようだ。
苗は順調に育っている。数カ月後、我が家産のリーフが採れる。どんな味がするのだろうか。