【記者兼農家のUターンto農】#53 異常気象

高温と湿気でたおれる苗

4月の終わり、異変に気づいた。見渡したグリーンリーフの畑は、緑色が点々と連なっているが、所々ぽっかり抜けている。地の黒色がやけに目立つ。植えた苗がしなびていたり、なくなっていたりして、マルチシートがむき出しなのだ。
しなびた苗は、つまむと簡単に抜けた。根がなくなり、地面に乗っかっているだけのものもある。風で飛ばされた苗もありそうだ。
父は困り顔だった。「分かんねぇな」。地元の農協に相談した。
畑に来た技術指導担当の職員は、しおれた苗を抜き、根を観察し、臭いをかいだ。「立ち枯れ病かもしれませんね」。土中の菌が原因の感染症だ。
「この時期に病気?」。聞いた父は不思議そうだった。「今年は特別みたいです」と職員は答えた。病気に悩んでいる農家は他にもいるという。
原因は天候らしい。
この春は、極端だった。気象庁の観測で、最高気温が25度以上になる夏日が、松本で去年も一昨年も4月はたった1日だったのに、この4月は1週間分を数えた。それも桜が咲いたばかりの10日から4日間続いた。
直後には大雨が降った。2日間で39ミリは、平年の月間降水量のほぼ半分だ。
「高温プラス湿気は病気が出やすい。晴れが続くなら心配ありませんが」と職員。実際は、短い周期で晴れたり雨が降ったりした。
「そういや、トラクターで耕すと、いつも土ぼこりがすごいんだが」と父。今年は、後ろがよく見通せた。土が湿っていたせいだ。
「病気か。分かった」。納得顔になった父だが、割り切れない気持ちは残っているよう。「こんなの、今までなかったなあ」
病気が出た畑は、元は田んぼで、稲を作っていた。粘土質が残る土壌は、水分をため込みやすい。乾燥する時期と見込んで苗を植えたのが、裏目に出た。
マルチの黒い空き地は、ざっと畑の2割くらいか。Uターン2年目、可視化された異常気象はずっと脳裏に残りそうだ。