【記者兼農家のUターンto農】#73 根のこぶ

土中で稼働する「肥料工場」

このページ右側の記事で紹介した松本山雅FCの新人選手たちによる「あやみどり」の収穫。取材では、大豆の出来具合に劣らず、確かめたかったものがある。根っこだ。
選手がさやを取り終えた茎を手に取る。根の土をふるい落とすと、目当てのものが現れた。小さなこぶ。「根粒(こんりゅう)」という。ここで窒素肥料が作られているのかと思うと、思わず見入ってしまう。
窒素は、植物の成長に欠かせない。作物栽培では、土中で過不足が生じないよう、普通、肥料で調整する。
実は、窒素は身近にあふれている。大気の78%を占めている。これを使えるようにできないか。実現したのがハーバー・ボッシュ法だ。20世紀初頭にドイツで発明され、化学的に窒素肥料を作れるようになった。農業生産が飛躍的に増えた。
素晴らしい発明は、大がかりな設備を必要とする。何しろ数百気圧、セ氏500度という環境で起こる化学反応を使うのだ。
だが、何でもない常温の屋外で同じようなことが起こっている所がある。根粒だ。中にいる根粒菌というバクテリアが、大気中の窒素をアンモニアに変換して、植物が取り込めるようにしている。小さなこぶが、大規模な化学工場に匹敵する働きをしている。自然は不思議で偉大だ。
ありがたみは最近さらに増している。化学肥料が、政情不安による供給不安や円安で高騰しているからだ。根粒菌の固定化する窒素を取り込む植物は、緑肥として注目度が上がっている。それがマメ科植物だ。
あやみどりが緑肥として使われるわけではない。ヘアリーベッチといった専用植物がある。とはいえ、せっかくの機会なので、山雅あやみどりの根っこに注目したのだ。
どうやら、うちのあやみどりより、たくさんこぶができている。使わないのにうらやましい。土壌がいいのか、日当たりなのか。農業を知るまでは、食べない部分の出来まで気になるとは思っていなかった。