「現代版下肥」、農高生が研究
人は食べれば出す。昔は、出したものを作物栽培に生かした。
そんな循環の記憶がうっすら残っている。幼い頃、うちの便所はくみ取り式だった。たまったものは、畑の一角の穴に運ばれた。
あれは本当に効果があったのか。今となっては検証できないが、日本では1970年代まで人ぷん尿が下肥(しもごえ)として活用されたと指摘するのは、法政大の湯澤規子教授だ(「ウンコの教室」ちくまプリマー新書)。私は、現場に立ち会えた最後の世代になる。
同書によると、下肥は江戸時代から使われ、近代に科学の知見と技術が加わった。戦中・戦後には、物資不足で重宝された。
高度経済成長期を経て廃れたが、ウクライナ戦争のあおりで肥料が高騰する今、再び「食べて出したもの」の成分が注目されている。下水処理で出る汚泥に含まれる窒素やリンなど。活用を官民で考えようと農水省が検討会を立ち上げたのが、昨年10月だった。
そんな折、南安曇農業高校生物工学科の生徒たちが、汚泥の活用を松本市に提案したと知った(12月21日付信毎)。直接行動に出た若者の思いと根拠を尋ねに行った。
「研究は2019年からやっています」と担当の今溝秀雄教諭。昨今の情勢に乗ったわけではなかった。
きっかけは、私の記憶にあるような、循環への意識だった。より今風ならSDGs。当時、近くの処理場「アクアピア安曇野」から、汚泥が活用できないかと持ちかけられた。カドミウムなど有害物質が基準値以下なのは処理場で分析していたが、肥料効果は未知数だった。
研究室で調べるより、田畑にまいてみようとなった。「農業高校ですから」と今溝さん。実践を重んじるのが農的スタイルか。幼い自分の見聞も重ねられる気がする。
先輩から研究を引き継いだ高橋里歌さん(3年)は「とにかく育ててみたかった」、柏木まえさん(同)は「仮説とデータで議論を深めるのが楽しかった」。栽培結果は、さらにわくわくするものだった。