【ブドウ畑に吹く風~記者のワイン造り体験記】#14 赤ワインを搾る

メルローから滴るルビー色

「メルローを搾るよ」。11月中旬、松本市笹賀のガクファーム&ワイナリー、古林利明さんから連絡をもらい、ワクワクしながら駆け付けた。
9月末に仕込んだ赤ワインのメルロー。発酵が完了してタンクの中は静まりかえり、シソのような濃い赤紫色の液体に満ちている。
この日は一日がかりでメルローを搾汁。助っ人として、東御市のワインアカデミーで学び、将来、自身のワイナリーを夢見る萩本雅泰さん(松本市)も作業に当たっていた。
ガクワイナリーのプレス(搾り)作業は、シンプルで手作り感がある。数百リットルものタンクを持ち上げて移動。液体の半分ほどを電動ポンプで吸い上げ、濁りのない果汁をそのまま別のタンクに戻す。果皮も含んだ液(果もろみ)の残り半分をプレス機にかける。
萩本さんが重い果もろみをすくい、古林さんが受け取りバスケットプレス機に入れていく。縦型のバスケットに上から果もろみを入れ、圧をかけて外に搾り出すタイプで、構造が単純で調整しやすく、ワインが酸化しにくい特長があるという。
果もろみが入ったプレス機からは、重力と果皮の重みで自然と汁が流れ出す。フリーランという。きれいなルビー色に見とれた。
続いて圧をかける。最初は手で加減し、その後は時間をかけ、ゆっくり搾っていく。フリーランとプレスラン、さらに時間の経過によって、濃さやタンニン(渋み成分)の出具合など味が変わる。
プレス機で搾ったワインは、再びホースを伝ってタンクへ。この後2週間ほど置き、ワイン内に含まれるリンゴ酸を乳酸菌の働きでまろやかにする「マロラクティック発酵」を行う。酸味を減らし、柔らかくまろやかな味に変化させる。
搾りたてを味見した。透明感があり滑らか。上品でしっかりとしている。「果実味とタンニンがバランス良く出ておいしい」と古林さんも太鼓判だ。
「ワイン造りの工程の中では一つの節目だが、まだ五合目くらい」と古林さん。今後の工程や熟成を経て、瓶詰めされ消費者に届くまで気を抜くことがないと聞き、ワインの完成という“頂上”への道のりは、想像よりも長く険しいものだと感じた。