塩尻市の町工場「ワーク精機」が取り組むDX 〝見える化〟で働きやすく

近頃よく見聞きするDX(デジタルトランスフォーメーション)。何となく分かったような気はするものの、実は良く分からない、と言う人も多いのでは。資金力やIT(情報技術)の知識が豊富でないと取り組みづらいというイメージも強く、中小企業ではあまり進んでいない、とも聞く。
そんな中、塩尻市広丘野村の「ワーク精機」が、昨年から本格的に取り組みを始めている。従業員13人。「根っからのアナログ人間」という井口正弘社長(59)と、総務や経理全般を担い「DXは知らなかったし、うちみたいな規模でデジタル化なんて無理」と思っていたという妻の千恵子さん(56)が推進する。
精密部品加工を行う町工場が進めるDXとは-?

ワーク精機のDX化は2022年10月、井口千恵子さんと、前職が大手電機メーカー営業の社員大橋謙一さん(44)が、県主催の研修会に参加した時から始まった。
教わったのは「大げさに考えず、まずは物事をシステマチックに『見える化』することが大事で、手段としてデジタルを使えば便利」という考え方。千恵子さんは「『目からうろこ』だった」。同年12月の続編では「何に困っているか、何が目的か、解決のためにはどうすれば良いか」という考えの組み立て方を学んだ。
「この仕事はこの人しかできない」という職人の集まりだったので、「休むと仕事が回らない」と休みづらかった。仕事の内容や進み具合が人によって違うため、仕事が重なった時の優先順位や機械の使用状況など、ことあるごとに一人一人に聞いて調整していた。
千恵子さんと大橋さんを中心にまず取りかかったのは、各自の仕事の「見える化」のための、エクセルでのスケジュール管理。リースが切れるため購入を検討していたパソコン5台に加え、4台を増設したのが初期費用だ。
半年ほどすると、複数の人が書き込むとデータが消えたり、ファイルが増えたりという不都合や、書き込める情報量が少ないなど課題が出てきた。そこで専用ソフトウエアを導入。スケジュール以外に空き機械なども「見える化」した。
社員が複数の業務に対応できる「多能工化」にも着手。これまでは「見て覚える」が当たり前だったが、作業や仕事の手順などのデータ化を始めた。
その他「困っていることなど何でも挙げてほしい」と開いた社内の「DX検討会」で出た意見から、半休やスポット代休、生理休暇の導入や、資格取得奨励の制度策定など、デジタル以外の点も改善することになった。
大橋さん同様「ほとんどが中途採用」という社員の前職での視点や経験も生かされ、区画や動線を分かりやすく表示するラインを引いたり、棚を作ったりして工場内を整備した。効率も上がっている。「当たり前と思っていたことが当たり前じゃなかった。社員のいろいろな声が聞けた」と井口正弘社長。
以前は「長時間働く人が良い」というイメージがあった。「効率化というと、人を減らしたり縛りつけたりすると誤解されがちだが、仕事が楽になれば余裕が生まれ、時間ができれば休みを取りやすくなる。プライベートも充実させてほしい」とし、スポーツクラブ法人会員などの福利厚生も検討中という。
取り組み始めてほぼ1年。少しずつ改善が進んでいる。当初は「(入力は)面倒」という声もあったが、最近は「この場合はどう入力すればいいか」などと大橋さんに尋ねる人も出てきた。
千恵子さんは「目的をはっきりさせて全員が同じ方向に向かうことが大事。みんなで共感できるようにしたい」。井口社長も「便利になればみんなも『DX化は良かった』と思えるのでは。改革は始まったばかりで、終わりはないんじゃないかな」と前を見る。

【DX(デジタル・トランスフォーメーション)」】
2018年に経済産業省が公表した「DX推進ガイドライン(Ver.1.0)」の趣旨をまとめると「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化、風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としている。