【記者兼農家のUターンto農】#50 シートベルト着用

安全のポイントを箇条書きした啓発チラシ(長野県提供)

ドライバーの心得田畑でも

田や畑にもヒヤリ・ハットは潜む。
トラクターに乗って土を耕す作業が本格的に始まっている。ひらけた場所を時速2、3キロでゴトゴト行く。のんびりしたものだ。
それでもごくたまにヒヤッとすることがある。ペダルやギアの操作を誤り、あれっと思う間に大きなタイヤがあぜに乗り上げている。そのまま行けば土手ののり面からゴロン、だ。
乗用車との感覚のずれから来るミスが、私の場合は多い。だが、ベテランのトラクタードライバーでも間違うことはあるようで、時に深刻な結果を招く。
農作業の死亡事故数を農林水産省がまとめている。最新は2020年分で、270人が亡くなった。うち最多の81人が乗用トラクター事故の犠牲者で、田畑や道路から転落、転倒したケースが6割を超えた。私のヒヤリ・ハットの延長線上だ。65歳以上が多い。
実は、長野県は47都道府県で死亡者が最も多かった。全国270人のうち20人。信州は農家の戸数が全国最多ということもあるが、重いデータだ。3割が乗用トラクターの事故という傾向は、全国と変わらない。
県は例年、安全のポイントを啓発している。この春は、直売所などでティッシュと一緒にチラシを配る。
重点項目の一つが、シートベルトとヘルメットの着用だ。特にベルトは、事故が犠牲者を生まない有効策と考えられ、農水省も啓発に力を入れている。
折しも先月、東御市で82歳の男性が亡くなった。棚田で作業中に下の田んぼにトラクターごと転落、シートベルトをしていなかったようだ。
自らを省みてどうか。正直、着けたことはなかった。安全意識を煩わしさがまさっていた。重大事故と紙一重だった。
公道を走る乗用車も、一昔前までベルトは煙たがられたが、今や着けることが常識となり、死亡事故は減った。同じ乗用車両のドライバーの心得として、田畑でも広がればいい。