稲の敵 実はそんなに悪くない?
田んぼが稲穂の黄金色に染まってきた。頼もしく眺めていると、ふと黒っぽい点々に気づく。一斉に跳ね、飛んでいく。スズメだ。
害鳥の代表格。米粒を食べるだけでなく、固まる前にミルク状のものを吸い出してしまう。
田んぼに点々を見つけると、たちまち心に不穏な影が差す。そんな心理になるのは、米作りに関わっているからだろう。
田んぼでなければ、そんなことはない。むしろUターン前、東京にいた頃などは、スズメを見ると、地元が思い出されて親しげな感情さえ起こった。
海外だと、なおさらだ。駅の広場などで見つけると、ちょこまか動くのに見入ってしまった。カラスやハトも日本と同じような姿を見るが、そんな気持ちは起こらない。スズメは、素直に見れば愛らしい一方で、子どもの頃から稲の敵の代名詞。愛憎半ば、特別な感情を起こさせるのかもしれない。
昔と比べ、田んぼのスズメ対策は緩くなった気がする。タイマー仕掛けの破裂音を響かせた装置はあぜから消え、かかしや鳥よけテープもあまり見ない。この秋、「けっこうスズメが来ている」と伝えた時の父も、「そうだな」と困った顔をしただけだった。大丈夫かな。
実際、無策なら被害はどのくらいなのだろうか。麻布大(神奈川県)の江口祐輔教授(動物行動学)は、1ヘクタールに100羽が20日間飛来して収穫量の0・2%程度と推計している(「本当に正しい鳥獣害対策Q&A」)。平年の出来からすると、うちの田んぼだと約5キロ、1000円余りというのが多めに見積もった計算になる。
スズメは、雑草の種や害虫を食べてくれる益鳥でもあるという。それが、この20年で生息数が3割ほど減ったという日本野鳥の会などの調査がある。確かに、うちの田んぼで目にする数も減った。江口教授が基準にした「1ヘクタール100羽」という密度はなさそう。
稲穂の海に散らばる点々は、子どもの頃からの秋に付きものの風景。そう思って、心穏やかに眺めてみようか。