【記者兼農家のUターンto農】#102 汚泥肥料投入

行政巻き込み「田んぼ」で実験

いよいよ始まる─。米農家にとって田植えは特別な作業だが、この若き作り手にとってはなおさらだ。
「ここまで来ました」と、南安曇農業高校2年の中野幸太さん(16)。同級生らと試験水田に苗を植えた感想を語る声が弾んだ。
理由は、先月ここにまいたものにある。下水処理場「アクアピア安曇野」(安曇野市)から出た汚泥。窒素やリンを多く含むため、肥料として使えないかと4年前から同校で研究している。今年、初めて本物の田んぼで試すことになった。
きっかけをつくったのが中野さんだ。入学時から汚泥の肥料化に関心があったという。実家は同市で「アルプス農事」を営む。折しも円安などで化成肥料が高騰し、喫緊の経営課題に。跡取り息子は、安い汚泥肥料の一日も早い実用化を望み、実家で試したいと申し出た。
しかし、いきなり大量の汚泥を一般の田に入れるには壁が高かった。今のところ、あくまで廃棄物だからだ。
そこで選ばれたのが南農高の田んぼ。アクアピアを運営する県犀川安曇野流域下水道事務所が行う検証に、同校が協働することで調整がなった。
行政が前面に出たのにもわけがある。今、多くの汚泥はセメント原料にしているが、焼成処理費がかかる。肥料化ならコストが浮くし、「あわよくば販売したい」と県環境部の流域下水道係。国が汚泥活用の方針を打ち出していることもあって、「県としてもアピールしたい」という。
実験では、1アールに汚泥200キロをまいた。同面積で通常の化成肥料をまいた区画と、何も入れない区画も準備した。生育状況を比べ、安全性を調べる。
県は検証に数年かかると見込む。実用化までは長そうだ。
それでも、田植えする中野さんはうれしい。「本田(ほんでん)では、ポット栽培と違う結果が出そうで、楽しみ」。先輩から受け継ぎ、仲間と続ける研究で描く未来に向け、経営者の卵は期待に胸を膨らませている。