住民からも情報集める
8月下旬、安曇野市の「サル追い払い隊」は、穂高有明地区で活動していた。午後4時すぎ、隊員の1人が持つ小型アンテナの端末が「ピッ」と鳴った。サルに付けた発信器の電波を捉えた合図だ。
アンテナをかざし、電波が強くなる方向を探って歩く。ある程度まで近づくと、端末のアプリで発信場所をより正確に解析できる。
「あっ」。脇の田んぼの反対側にサルがいた。奥の林から、のそっともう1匹。「やっと巡り合えた」と隊員の1人。真夏の陽気の中、歩き始めて1時間半がたっていた。
肝心なのはこれからだ。山側へ追い返すべく、里側から林の中に入る。さらに何匹か出てきた。子ザルを背負うものもいた。
相手方に驚いた様子はない。悠々とさえ見える。それでも、近づくと急ぎ足で去った。
「探せばいるもんですね」と同市豊科の堀江秀夫さん(68)。初参加で何とかサルを追う役割は果たせた。
この日は人家の多さも発見だったという。4年前に富山から移住し、この辺りは「ただの森と思っていた」。だが、分け入っていくと家が点々と続く。同じ感想を私も持った。人の暮らしと野生の営みが交じってしまうのも不思議ではない。
この日のようにサルをその場からは追い払えるが、再び来るのを嫌がるまでには、本当に息の長い活動になりそうだ。
専用ベストを着た隊員は、道行く住民によく声をかけられた。「昨日はサルの鳴き声を聞いた」「あっちの公園でよく群れている」「うちの前が通り道のようだ」…。困っていたのは農家だけでなかった。みんな隊の活動に関心を持っている。
「あの竹林はねぐららしいです」。有力な新情報もあって、市耕地林務課の木村将海主事が喜んだ。
「目撃データを集められればいい。家に監視カメラを付けてもらうとか」と堀江さん。その手もある。お金やプライバシーの問題はありそうだけれど。
ユニークな巡回戦術は、サルを追い払うだけでなく、人の知恵を集める仕組みにもなる。